『誰かの帰り道』

帰路を急ぐ人、帰路を惜しむ人。
あの人にも、この人にも、その人にも
帰る場所がある。帰りを待つ人がいる。

けれどそのどれも数量限定で
私の分が、足りていない。

一体、いつどこでどのように
彼らはそれを手に入れたのだろう。

私だけを差し置いて、抜け駆けして
一体全体いつの間に
至極真っ当な人間様になっていたのか。

そして誰もが誰もに、それを期待する。
だから私は、言い出せない。

私なんて本当は
暮れなずむ町の、蜃気楼。

こんなに道があるのに
私の帰り道は、見つからないんだ。


photo by「ノエル」様
2020.12.12