『透明の絵の具』

あの人の涙は、美しい。

ピカピカでツヤツヤの
なだらかな器の中に

満ちて、満ちて
ついに溢れた、あの人の中身。

それは
光を内包して輝くような

オーロラと虹。

南の海のゆらめきと貝の内側。

まだ誰の目にも触れていない
石の中で眠る宝石たち。

目が覚めるような
夢の中のような

七色よりもたくさんの色で
世界を彩る絵の具の涙。

キャンバスが色づいていくたび
どんどん色を失うあの人は

水のように
空気のように
透明になって

やがて、見えなくなってしまった。

もう君とも覚束ない、あの人は
才能のある人だったと、思う。


photo by「EIO」様
2022.05.22