『東京金魚』

わたしは金魚。
コンクリートの水槽で
赤く揺蕩う、小さな金魚。

変化を嫌いながら、逆流を好み
群れに落ち着く、没個性。

与えられた環境以上に
大きくなることを許されず

海を夢見ることもない
淡く儚い人工生命。

つくられた観賞魚は
誰かのために生まれた、つもりは無いが
誰かのために生きてみたい、いつしかは。

わたしは金魚。
縁日の屋台の下で
大きなコイに憧れる、一匹の少女。

与えられただけ食べ続け
消化不良で死にかける
愛され下手な、ひとりの金魚。


photo by「野口悠治」様
2022.06.25